PLAYER #05 ——
杉浦 和美
Kazumi Sugiura

HOLE 07
80の壁の処方箋
検体・葉子。伸びしろは、まだあるらしい。
葉子:いよいよ本題、私の番です。57歳、ゴルフ歴15年。ここ10年以上、90前後をうろついている私が80を切るには、何をすればいいですか?
杉浦:やっぱり、基礎です。「8時から4時」のハーフスイングですね。私自身、朝練の最初に必ず10球打つルーティンにしていて、フルスイングで迷ったときに、正しい軌道へ戻す基準にしています。
「還る場所」ってやつだ。
小さな振り幅でも、同じ高さ、同じスピード、同じ打感で揃えるのは、意外と難しい。
杉浦:それから、定期的にスイングをチェックしてもらえる存在をつくること。月に1回でも客観的に見てもらうと、崩れかける前に修正できますよ。
先生の生徒さんの中には、かなりの上級者でありながら、定期的にレッスンに通い続けている人も多いという。
杉浦:上手い人ほど、ちゃんと定期的なメンテナンスを行っているんですよね。
……耳が痛い。
ゴルフ歴も15年となれば、知識や理屈だけは頭でっかちになる。YouTubeで最新理論を見つけては試して、調子が悪くなればまた別の動画へ。シャローに背屈、GGスイングにもハマったなぁ……(遠い目)。
ジプシー・葉子。あれこれ手を出しているうちに、自分のスイング「還る場所」を見失ってしまった。

パターマットは、ある。
杉浦:あと、パター練習はやっていますか?
葉子:……マットは、あります。
杉浦:毎日やってます?
葉子:……。
杉浦:パー72で考えると、36がショットで36がパット。ちょうど半々なのに、ほとんどの人がショットばかり練習しますよね。「50対50で練習しなきゃダメだよ」ってアドバイスされたことがあるんです。
パットの重要性は、身にしみてわかっている。
わかっちゃいるけど……。
杉浦:私は部屋に2メートルのパターマットを置いて、出かける前の5分間、3球だけでも転がすようにしています。クローゼットに鏡を貼って、構えと手の形を確認してから打つんですよ。
葉子:毎日、少しずつでも続けるんですね。
杉浦:そう。平らなマットがいいですよ。傾斜があると強く打つ癖がついちゃうから。
実は杉浦先生も、以前はパターに悩んでいたという。
ご主人から「カットに打っている」と指摘されても、最初は素直に受け入れられなかった。けれど、試しにインサイドから打ってみると、スーッと真っ直ぐ転がった。
そこから地道な試行錯誤が始まった。
マットにゴム紐を張って軌道を確認し、スマホで動画を撮っては手の動きをチェックする。パットの上手い仲間にコツを聞いては、次のラウンドで試す日々。

杉浦:今では主人から「どこからでも入れてくるね」と言われるようになりました。コツコツ続けた成果ですね。緊張する場面で手が動くのは、やっぱり「裏付けとなる練習」があるからなんです。
葉子:裏付け、ですか。
杉浦:「あれだけやったから大丈夫」と思えるからこそ、打てる。何もしていないのに「まあ何とかなるだろう」では、やっぱり甘いんですよね。
必要なのは、根拠のない自信ではなく、裏付けのある確信。部屋にマットを敷いているだけでは、大事な場面で手が動いてくれない。
集中力の電池は、18ホールもたない。
杉浦:それと、ゴルフは技術だけではありません。70台を出すにはマネジメント、つまり「考え方」が大切なんです。
葉子:メンタルコントロールですかね。
杉浦:そう。私もメンタルの本をたくさん読みました。筑波大学で教授をされている先輩プロから教わって、今も実践しているのが「18ホールを3ホール単位で区切る」方法です。

・ラウンドレッスン日本一のプロが教える「ゴルフ脳」
葉子:3ホールずつ、ですか?
杉浦:人間の集中力って、18ホールも持ちません。でも、3ホール約45分なら集中できる。だから3ホール単位で目標を立てるんです。
例えば「この3ホールは2オーバーで抑える」と決める。ボギーが2つ出ても想定内。ダブルボギーだけは叩かないように立ち回る。
仮に4オーバー叩いてしまっても、過ぎた区間のことは忘れる。無理に取り返そうとせず、次の3ホールへ気持ちをリセットするのだ。
杉浦:ポイントは、ずっと集中し続けないこと。打ったら一度、意識を「ほどく」んです。
葉子:ほどく?
杉浦:そう。たわいのない日常会話でもして(笑)。次のボールに近づいたら、また情報を集める。距離、ライ、風、傾斜。狙いを定めて素振りをし、集中して打つ。
葉子:で、打ったらまたほどく。
杉浦:その通り。バンカーに入っても焦らず、一度ほどく。こうやって集中力の電池を節約しながら使わないと、終盤にバッテリー切れを起こしてバタバタと崩れてしまいますから。
……先生、どこかで私のラウンド見てました?
ハーフベストが見えてきた瞬間、ピンへ全集中。
上がり3ホールでボギー、ダボ、ダボ。
見事に返り討ちにあい、カートでうなだれるのであった……嗚咽。
コツコツやってきた人だけが見える景色
葉子:結局のところ、私でも80の壁を越えられますか?
杉浦:越えられますよ。
即答だった。思わず前のめりになる私。
杉浦:2年半前の私はどん底で、生徒さんの前でチョロを打っていたくらいです。誰にでもスランプはあります。でも、地道に向き合い続けてきた人だけに見える景色が、必ずありますから。
いやはや、説得力が半端ない。
できないもどかしさも、言われた通りに身体が動かない悔しさも、自分自身がたっぷり味わってきた杉浦先生。だからこそ、伸び悩む生徒さんにも、すぐに答えを押しつけず、本人が気づくタイミングを待つ。
そんな先生だから、もう一度教わってみたいと思った。
検体・葉子。
「伸びしろがない」のではなく、年齢に応じた「伸ばし方」に変えるタイミングなのかもしれない。
だったら、もう少しあがいてみよう。
80の壁の向こう側に、何があるのか。
「コツコツやった人だけが見える景色」を、私もこの目で見てみたい。

というわけで。
先生、言いましたよね。
「80の壁は、越えられますよ」と。
それなら——
今度はコースで、たっぷり診てもらおうじゃないの。
検体・葉子、15年ぶりのレッスンへ。
(つづく)
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